報 告

 第3回大分緩和ケアの夕べ

場   所  : アステム本社4F 大会議室
参加人数 : 212名 
         医師 31名、看護師 145名、薬剤師 20名、その他 16名


今回も212名と多くの医療者が集まり、熱心な質疑応答も行われた。呼吸困難は癌性疼痛と共に、癌終末期の極めてコントロールしにくい治療、ケアであった。呼吸困難の基礎から、その治療、ケアなど幅広い講義内容であった。モルヒネの使用方法や、他の薬剤、理学療法まで及んだ。また、癌性胸水の簡便なコントロールの仕方や、ゼロゼロいう喘鳴などの治療方法など、実践に即した講義でもあった。
                     


   【 講演内容 】

“癌終末期患者の呼吸困難の治療とケア”
演者: 山岡憲夫氏 (大分ゆふみ病院  院長)



T)はじめに
癌の終末期には約50%(27-74%)の患者が呼吸困難を呈するといわれ、また、肺癌や肺へ転移により反復する胸水の処置に困る事を多く経験する。今回、終末期の重要な胸部症状、特に呼吸困難の基礎とその治療とケアや、反復する胸水の簡便な処置などについて講義する。


U)呼吸困難の基礎
 定義は
“呼吸時の不快な感覚” であり、(呼吸に伴う違和感、不快感、苦痛を感じる状態)あくまでも、主観であり、呼吸不全とは異なる。酸素不足(呼吸不全)で呼吸困難は起こるものでなく、酸素投与で、SpO2が改善しても呼吸困難はかならずしも改善しない。
その原因
  1) 呼吸刺激に対する換気量のミスマッチ
  2) 体液の異常を感じ取る化学受容体の働き
      @低O2血症  A高CO2血症
  3) 機械・刺激受容体の影響
      @上気道(口腔、鼻腔)の受容体
      A 肺内の受容体
       a) 肺進展受容体:
       b) 肺刺激受容体:
       c) J 受容体


V)呼吸困難の原因診断のために行うこと
  1)問診
    @病歴:最近受けた治療、現在服用中の薬の確認
    A患者の不安は、
    B体動時の息切れ
    C症状のチエック:突然、急か(誤飲による気道狭窄閉塞、不整脈、気管支痙攣)
  2)診察(身体的チェック)
     *Vital(体温、脈拍:数、リズム、呼吸:性状、数、血圧)は必ず
     *SpO2:あくまでも目安になる
     *呼吸音のチェック:肺雑音、左右差、上下差
  3)検査
     a)SpO2,胸部Xp,心電図      b)血液ガス


W)呼吸困難のマネジメント
  1)患者の訴えを聞く
      **呼吸困難は主観的な症状で、その程度も本人にしか分からない
      **単に、息苦しいのみでなく、ご飯が食べれない、飲み込めない、歩けない
  2)訴えを評価する(呼吸困難の評価)
  3)症状をマネージメント(治療、コントロール)する
  4)もう一度、訴えを聞き、再評価する


X)呼吸困難度の評価
呼吸困難のフローシートを用いる
呼吸困難スコアー:その1

  0: 全く息苦しくない
  1: 少し息苦しい(軽度)
  2: まあまあ息苦しい(中等度)
  3: かなり息苦しい(重度)
  4: とても苦しい(最重度
呼吸困難スコアー:その2
全く苦しくいない:0、これ以上ないほどの息苦しさ10とすると、
あなたの息苦しさは数字でどれくらいですか?
  0〜10まで


Y)呼吸困難に対する治療
一般的対策
  1) 姿勢
    *まずは頭をあげ半座位にする;鉄則
    :悪い方(片側)を下にした、側臥位にすると楽になりやすい。
    (ただし、良い方を下にした方が楽になる場合はある:無気肺)
  2) 部屋の環境
    窓を開け、風を送る、室温は低めに、湿度は高めに。
  3) 不安の軽減


Z)呼吸困難のコントロール
      1.原因病態の治療
      2.対症療法
        a) 酸素投与
        b) モルヒネ
        c) 抗不安薬
        d) ステロイド
        e) その他
      3.非薬物的療法

1.原因病態の治療
2.対処療法

a)酸素療法(呼吸困難に対する)
  1) SpO2:低下:ためらわず酸素投与
            酸素1-2L/分:改善目標は92%以上
            ただし、COPD(肺気腫)の時はO2は1L/分で、90%で十分である。
  2) SpO2正常(95%以上):
これでも酸素や空気をやると、呼吸困難感が和らぐことがある。ただ、漫然と続けない、SpO2でなく、本人の改善感で評価する

b)モルヒネ
=呼吸困難に対するその効果と作用機序=
  1) 呼吸困難の対症療法の薬剤では第一選択がモルヒネである
  2)モルヒネの作用機序
   @呼吸中枢の感受性を低下、  A呼吸数を低下:酸素消費量を減少   
   B中枢性の鎮咳作用、  C不安の軽減、 D中枢性の鎮静作用
 
=呼吸困難に対するモルヒネの投与法=

  1) 経口法:*塩酸モルヒネ水溶液:1回3mg→5mg →7mg→10m(4−6時間ごとに)
  2) 持続皮下注法: 塩酸モルヒネ注射液:0.5mg/h(12mg/日) →1.0mg →1.5mg (24時間持続投与)
  3) 増量法
     a) 呼吸数:20回/分 前後を目標、10回以下では慎重投与
     b) 増量法:すでに使用していれば、モルヒネの量を25-50%増量
     c)経口からCSIの変更は経口投与量の1/2から1/3

=モルヒネの使用方法=

呼吸困難
疼痛に対するより少量で効果がある。
  @モルヒネを使用しているか?YESの場合:20−50%増量
  ANOの場合:塩酸モルヒネ水溶液:1回3〜5mg を1日4−5回経口で開始

c)抗不安薬
がん患者の呼吸困難は不安や精神的ストレスとの関連性がある
  1) デパス1回(0.5-1.0mg)を1日2-3回
  2)セルシン1回(2-5mg )1日3回
  3) ワイパックス1回(0.5-1mg)1日2-3回,,,,モルヒネとの併用可能
   *重症時:セルシン1/2-1A注射、ドルミカムの点滴、CSI
**抗ヒスタミン剤併用**
  1)ピレチア(ヒベルナ):10-25mg寝る前内服、呼吸困難感改善、喀痰減少
      ゼイゼイなどの喘鳴時の効果的。アッタラクスP
  2)ハイスコ:気道分泌減少
      
d)ステロイド
薬剤
  1)リンデロンが一般的….鉱質コルチコイド作用が少なく、むくみなど少ない
                  半減期が長い(1日1回投与で十分)、力価が高い、錠剤が小さい
  2)初期量:プレドニン:30-60mg。リンデロン:4ー8mg

e)その他
  1)気管支拡張剤:ホクナリンテープ(1-2mg)、吸入剤(ベコタイド、フルタイド、メプチンエアー)
  2)吸入療法
    a)モルヒネ吸入(モルヒネ20mg+生食5ml)4時間毎
     モルヒネが気管を刺激し、攣縮することある
    b)ラシックス吸入
     :ラシックス1A(20mg)+生食3-5ml 超音波ネブライザイー:適宜
      肺内の伸展受容体を活性、刺激し、受容体を介して呼吸困難感を緩和する。

**呼吸困難の対症療法のまとめ**
  1)酸素投与
  2)モルヒネ
    a)塩酸モルヒネ1回2-5mgより1日4-5回経口投与で開始
    b)持続皮下注法:0.5mg/h(12mg/日)から1.02.0と増量する
    c)すでに使用していれば、モルヒネの量を25-50%増量
  3)抗不安薬
    a)デパス1回0.5-1.0mgを1日2-3回
    b)セルシン1回2-5mg 1日3回
    c)ワイパックス1回0.5-1mg 1日2-3回,
  4) ステロイド
    a)リンデロン2-24mg/日(半減期が長く、副作用が少ない)
      2-4週間を限度とする
  5) その他
    a)気管支拡張剤:ホクナリンテープ(1-2mg)
    b)吸入療法
       @モルヒネ吸入(モルヒネ20mg+生食5ml)4時間毎
       Aラシックス20mg+生食5ml 適宜

3.非薬物的療法
  1) 肺理学療法
    @軽い運動   A腹式呼吸   B体位ドレナージ
    C強制呼気法(huffing)   D深呼吸の徒手補助(squeezing) 
  2) 日常生活におけるナーシング
    @体位の工夫   A排便の調節   B環境整備
    C精神面のケア   Dコミュニケーション
  3) リラクゼーション法、イメージ療法
  4) アロマセラピー
  5) 十分な説明


[) “ゼロゼロして息苦しい時は”wheezing
痰の増加を抑える:  @過剰な輸液量の減少か中止
              A水分補給は経口で補う
  1)痰の喀出可能な時期
   喀出を促す
    a)去痰剤の使用(内服、注射)   b) ネブライザー(3-4回/日)
    c)肺理学療法:体位ドレナージ、タッピング、呼吸の徒手補助
    d)就寝時、起床時に痰の喀出させる。
  2)痰の喀出困難な時期
   痰を出さないようにする
    a) 過剰な輸液の減少、中止
    b) 痰の分泌を押させる*ハイスコ:1/2〜1/4A (2-4回/日):舌下、皮下注
 

\)反復する癌性胸水の痛くない処置方法
  1) 検査:胸部Xp,エコーで胸水の位置と量を確認
  2) 方法:IVHカテーテル16F
 局麻後、肋間の肋骨上縁より約10cm挿入する。胸水が最もよく引ける部位に入れる。 
 吸引後、必ずへパリンでフラシュする。2-3日毎に吸引:約300-500ml
 利点:痛みがない、処置が簡単であり、誰でも出来る。歩行も、入浴も可能ある。
 欠点:引けないときがある。薬剤を入れるのは適さない(癒着しやすくなる)
 実例で約2ヶ月詰まることなく、外出可能で、痛みがなく、胸水を除去でき、極めて有用であり、一度は試してみる方法である


])参考文献、資料
1)田中桂子:がん患者の呼吸困難マネージメント
2)ロバート・トワイクロス:トワイクロス先生の症状マネージメント
3)土井千春:(国立ガンセンター東病院:緩和ケア病棟)
     第93回ホスピスケア研究会(2004,7) “呼吸困難の病態と症状マネージメント”
4)ターミナルケア:がん症状マネージメント(1997)
5)ターミナルケア:がん症状マネージメントU(1998)
6)千住秀明:呼吸リハビリテーション入門(神陵文庫
                  


=講演後の質疑応答=
1) 質疑:呼吸困難に対するホクナリンテープの使用方法(訪問看護師より)について、
応答;がん患者さんは高齢や、喫煙者が多く、慢性呼吸器疾患を基礎に持っていることが多い。
これらの方々に、ホクナリンテープは、副作用が少なく、内服する必要がなく、経皮的に吸収でき、気道拡張ができ、呼吸困難をしばしば呈する方には有効な事が多い。
 山崎先生(大分県立病院、呼吸器内科部長)の応答:確かに、ホクナリンテープは有効なことがあります。1mgであれば問題ありません。

2) 質問:がん終末期の患者さんでゼロゼロが多くて困る事があります。その対処方法は?(医師)
応答;死前喘鳴と言います。これは死亡する1-3日前に状態がとても悪くなった患者さんに、しばしば見られます。吸引しても取れない、ゼロゼロです。これは、肺自体の機能が低下し、吸引しても肺の中からでてきますので、治りません。これにはハイスコ(スコポラミン)がとても有効です。1/3~1/4Aを皮下注射してください。著効あります。3-6時間毎に可能です。これにてゼロゼロが減少します。また、1日に1A-2Aを点滴内に入れ24時間持続で投与する方法も有効です。無くなるー3日に起こる死前喘鳴は、患者家族も、医療者もとても気になりますので、ぜひ、ハイスコを使用してみて下さい。

3) 質問:ラシックスのネブライザー使用は、呼吸困難に効果が本当にあるのですか。
応答:文献が効果があったとの報告がありますが、エビデンスはありません。他の病院で使用している症例を経験しましたが、効果ははっきりしませんでした。一度使ってみてください。
(文責:山岡憲夫)